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大津地方裁判所 昭和24年(行)2号 判決

原告 田淵須美恵 ほか一名

被告 滋賀県農地委員会

一、主  文

別紙目録記載の宅地の買収計画に関して原告横江喜助が提起した訴願につき被告が昭和二十三年十二月一日なした訴願棄却の裁決はこれを取消す。

原告田淵須美恵の請求を棄却する。

本件訴訟費用中原告田淵須美恵と被告との間に生じたものは原告の負担とし、原告横江喜助と被告との間に生じたものは被告の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、「被告が昭和二十三年十二月一日なした、原告等の各訴願をそれぞれ棄却する旨の各裁決を取消す、訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決を求め、その請求の原因として滋賀県栗太郡山田村農地委員会は自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第十五条第一項第二号に基き、昭和二十三年九月二十五日原告田淵須美恵所有の同村大字北山田字郡西七百七十四番地の一宅地五十二坪六十五及び原告横江喜助所有の同所七百九十九番地宅地七十一坪に対し各買収計画を定めたので、原告等は同年十月五日それぞれ異議を申立てたが、同異議はいずれも同年同月二十五日却下され、原告等は、更に同年十一月四日被告に対し訴願したところ、同訴願はいずれも同年十二月一日棄却されその各裁決書は、同年十二月十六日それぞれ原告等に送達された。しかしながら本件買収計画には左記の如き違法があり、これを認容した被告の裁決も又違法である。すなわち、

(一)  本件宅地の買収計画は原告田淵須美恵の所有地の賃借人たる横江小太郎及び原告横江喜助の所有地の賃借人たる中島末吉の申請に基いてたてられたものであるが、右宅地は申請人等が売渡をうけた農地より九町乃至十町離れたところにあり、しかも同地上には申請人等の居宅が建てられ、空地の部分は庭園や野菜畑などになつていて、前記開放農地との間に何等従属関係を認め得ないのみならず、申請人等の農業経営上利用関係もないのだから、かゝる宅地につき自創法第十五条に基いてたてられた買収計画は違法である。

(二)  前記横江小太郎の自作農地はわずかに六反六畝歩で、そのうち五畝歩余は実際は訴外池田栄吉、横江源太郎、木村五一等に耕作させており、同人の昭和二十四年度における農業所得は金四万五千円余に過ぎず、漁業を兼業として家族四名の生計を補つているのであり、また中島末吉の自作農地は、売渡を受けた農地四反三畝のみであつて同人の昭和二十四年度における農業所得は約五万円に過ぎず、別に長男が会社員、弟が船員、妹が洋裁等をして合計九万八千円余の収入を得て一家八人の生計を維持しているのである。従つて横江小太郎は兼業農家であつて自作農として農業に精進する者とは言えず、中島末吉方はその主たる所得が農業以外の職業から得られているのであるから、同人等の本件宅地買収申請は不当であり、これを相当と認めてたてられた買収計画は違法である。

(三)  横江小太郎は二十余年前より、中島末吉は十数年前より夫々引続き本件各宅地を賃借して居つて、同人等の地位は安定して居り今更これを買収する必要はない。

(四)  なお、自創法第十五条によれば同条による買収宅地の対価は時価を参酌して定めるべきものとされて居り、本件土地の所在地における時価は賃貸価格の五百倍であるのに、山田村農地委員会はわずかに賃貸価格の六十倍をもつて買収対価と定めて買収計画をたてているのであつて、この点も又違法である。

よつてこゝに右違法な買収計画に対する原告等の訴願を棄却した被告の裁決の取消を求めるため本訴に及ぶと陳述した。(証拠省略)

被告指定代理人等は、「原告等の請求を棄却する訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、

答弁として、原告主張の各日に、その主張のような買収計画樹立異議申立、同却下決定、訴願、同棄却裁決があり右裁決書が昭和二十三年十二月十六日原告等に送達されたこと、横江小太郎が漁業を副業とし中島末吉の長男及び弟妹が原告主張のような職業に従事していること本件各申請人は本件宅地を二十年又は十数年の多年に亘り原告等より各賃借し来つたこと、並びに本件各宅地上に各買収申請人の居宅がそれぞれ存在することは認めるが、その余の原告主張事実はすべて争う。すなわち、(一)自創法第十五条第一項第二号に基く宅地買収は、同項第一号の農業施設買収と異り、対象土地が売渡農地の附属物たることを要するものではなく、当該宅地が自作農となるべき者の農業経営上利用されていることをもつて足るものと解すべきところ本件宅地には、いずれも買収申請人横江小太郎、中島末吉等の居宅が建てられていて、右居宅の一部は農具や収穫物の収納場に使用され、なお居宅敷地以外の空地は収穫物の乾燥、調整、処理等のため利用されているのであつて、本件宅地は同人等の農業経営上必要なものであり、従つて自創法第十五条によつてこれを買収することは毫も違法ではない。(二)横江小太郎の水産所得はいずれの年も農業所得の半額以下であり従つて右横江方は専業農家というべく、同人も中島末吉も共に熱意をもつて農耕に従事して居るのであるから同人等を農業に精進する見込あるものと認め、その農耕上必要な本件宅地の買収申請に基き買収計画を定めたのは違法ではない。(三)自創法第十五条が同法による開放農地を買受けたものに賃借宅地の買収申請を認めた趣旨は自作農となるべき者に、農業経営上必要な宅地の所有権を取得させることによつて、これ等の者が土地所有者より蒙むることあるべき一切の圧迫を排除し自作農の地位を安固ならしめようとするにあるのだから、本件買収申請人等が長年の間無事に本件宅地を賃借して来たからとて、それだけの理由で本件買収の必要なしとはいい得ない、と述べた。(立証省略)

三、理  由

滋賀県栗太郡山田村農地委員会が自創法第十五条第一項第二号に基き昭和二十三年九月二十五日原告田淵須美恵所有の同村大字北山田字郡西七百七十四番地の一宅地五十二坪六十五並びに原告横江喜助所有の同所七百九十九番地宅地七十一坪に対し各買収計画を定めたので原告等は、同年十月五日それぞれ異議を申立て、同年同月二十五日右各異議が却下され更に同年十一月四日被告に対し、訴願したところ被告は同年十二月一日各訴願を棄却する旨の裁決をなし、その裁決書が同年十二月十六日原告等に送達されたことはいずれも当事者間に争いがない。原告等は右買収計画につき被告農地委員会に対して原告等のなした訴願を棄却した被告委員会の処分が違法である理由として、(一)本件宅地は買収申請人たる横江小太郎及び中島末吉の農業経営上必要のものでないこと、(二)右買収申請人等は共に兼業農家であつて農業に精進する者でなく、特に中島末吉方はその主たる所得が農業以外から得られていること、(三)右買収申請人等は長年月に亘つて本件宅地を賃借して居つて同人等の地位は安定して居り、今更ら同人等に本件宅地を買得させる必要のないこと及び(四)山田村農地委員会の定めた買収対価が不当に廉価であることを主張している。

ところで右の四の点については、自創法に基く買収計画の中その対価に関する争については同法第十四条で特に一般の不服の訴と別に出訴の方法が認められているので、対価についての不服は右の訴によつて争うべく、この事由をもつて買収計画そのものの違法原因として主張し得ないものと解する。

次に、証人横江清八、同中村晋三の各証言及び検証の結果を綜合すれば、本件各宅地にはそれぞれ横江小太郎及び中島末吉の居宅が建てられているが、右敷地以外に空地の部分があり、右空地は平常は野菜等の栽培に使用されているが米麦収穫期にはこれが乾燥調整等の場所として利用されて居り、且つ右居宅は家族の居住の外農具等の収納の目的にも使用されていることが認められるので本件宅地は同人等の農業経営上必要なものというべく、かかる宅地は自創法第十五条によつて買収し得べきこと勿論であるから、山田村農地委員会が右横江小太郎、中島末吉の申請に基いて本件宅地につき買収計画を定めたのはいずれも正当であつて、本件裁決もまた何等違法でない。

なお原告等は右横江、中島等は農業経営に熱意を欠き、これに精進するものではないと主張するけれどもかゝる事実を認めるに足る証拠はなく、横江小太郎方が水産業を兼営する兼業農家であることは、被告の認めて争わないところであるが、成立に争のない乙第一号証によれば、同人方の主たる所得は農業によつて得られていることが明かであるから、この点においても本件買収計画には何等の違法はない。しかしながら、中島末吉方においては、同人が農地開放によつて買得した四反余りの農地を耕作する外同人の長男が会社員を、弟が船員を、また妹は洋裁をして居ることは当事者間に争がなく、成立に争ない甲第二号証によれば、同家の収入は昭和二十二年以来毎年右長男や弟の勤労による農業以外の所得が農業所得の二倍以上になつている事実を認めることができるので同人方の所得の中主たる部分は農業以外の職業によつて得られているものというべく、かゝる者の申請に基いて宅地買収をすべきでないことは自創法第十五条の規定上明白であるに拘らず、山田村農地委員会が右中島の申請を容れて原告横江喜助所有の宅地につき定めた本件買収計画は違法たるを免れず、右計画を維持して原告横江の訴願を棄却した被告農地委員会の処分もまた違法のものといわねばならない。もつとも、自創法第十五条に前記買収の除外事由が明定されたのは前記買収計画の樹立並びに訴願棄却の裁決処分のあつた以後に行われた同条の改正に基くものではあるけれども、右改正は明文をもつて同条の法意を明かにしたものにすぎず、同条の趣旨は自創法制定の当初より右明文の示す通りであつたものと解するを相当とするから、本件裁決が右の改正前になされたものであるとの一事によりこれを当時の法規に従つた適法の処分というを得ず、右裁決はついに取消しを免れない。

よつてさらに原告田淵須美恵の(三)の主張について考えてみるのに自創法第十五条の趣旨は、同法に基く農地開放によつて自作農となるべき者より自己の農業経営上必要なりとしてその賃借に係る宅地建物の買収申請があつた場合、農地委員会において右申請を相当と認めるときは、同法に定める買収売渡の手続によつて、これを申請者の所有たらしめ、もつてその耕作者としての地位の安定をはからんとするにあるのであつて、右宅地建物の賃貸借が永年に亘つて存続しているかどうかの如きは、右買収の要否を定める上に何等直接の関係ない事項であるから、たとえ横江小太郎が本件宅地を二十余年前から継続して賃借しているものだとしてもこれがため本件買収計画の樹立が不適法だということはできない。

以上説明のように、被告滋賀県農地委員会のなした本件裁決の中原告横江喜助のなした訴願を棄却した部分は違法であるからこれを取消し、原告田淵須美恵の訴願を棄却した部分は正当であつて同原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小石寿夫 八塚英一 東民夫)

(目録省略)

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